歯牙移植とは?
歯牙移植は古くから行われており、二千年程前から試みがあるそうです。医療科学の発展とともに他の動物やヒトからの歯牙移植はさまざまな理由により行われなくなりました。 当院で行う歯牙移植につきましても自家歯牙移植、すなわちご自身の歯を他の部位に移植することを前提としております。 歯根破折や治療できない虫歯によって抜歯が必要となった部位または以前に抜歯されている部位に、特に智歯(親不知)を移植する場合が一般的です。 親不知がドナー歯として使えるならば、インプラントやブリッジなどの欠損補綴治療に代わる選択肢となる可能性が高いです。 以下に治療例の一部を示しますので参考になりますと幸いです。
38歳 男性 - 下顎右側第二大臼歯部への上顎右側第三大臼歯(ドナー)自己歯牙移植
1. 術前
2. 当該歯の歯根破折を確認
3. 当該歯抜去時
4. ドナー歯(一番左側の歯)
5. 移植直後
6. 根管治療後:経過13ヶ月
解説:根管再治療を依頼された歯牙には垂直性歯根破折を生じていました。 当該歯の抜歯前に非機能の上顎右側第三大臼歯の存在を説明したところ自己歯牙移植を希望されました。 垂直性歯根破折が生じた歯牙は予後不良となる確率が極めて高いことが予想されるため抜歯が妥当な処置であり、 適切なドナー歯があるならば自己歯牙移植は患者利益の高い治療法であると考えます。 縫合による固定を外した約3週後に根管治療を開始しました。 約一年後の経過観察では根尖周囲透過像の消失を認め、異常な臨床所見と骨性癒着は認められませんでした。
37歳 女性 - 上顎左側第一大臼歯部への下顎右側第三大臼歯(ドナー)自己歯牙移植
1. 術前
2. 歯根破折した抜去後の歯牙の状態
3. ドナー歯(一番左側の歯)
4. 移植直後
5. 根管治療完了時
解説:根管再治療を依頼された歯牙には大部分の歯質の損失ならびに水平性歯根破折と虫歯を生じていました。 保存治療が適応されないこと、および当該歯の抜歯前に非機能の下顎右側第三大臼歯の存在を説明したところ自己歯牙移植を希望されました。 縫合による固定を外した約3週後に根管治療を開始しました。 通常は約3週間で移植直後の動揺は元通りに回復します。
全身疾患、歯周病の罹患傾向、移植歯の状態などにより移植が適用されない場合もございますので事前の診査・診断が重要となります。 年齢は若ければ良いですが、当院では60歳台の患者さんでも成功しております。 条件が整った場合、移植の成功率はかなり高いのですが、通常移植した歯は歯髄が壊死してしまいます。これに伴い根管治療が必要となりますが、 親不知の根管形態は一般的ではない場合が多く見られます。当院は歯内療法専門ですので、この根管治療の成功率においても高いことが強みとなります。
なお、当院ではインプラントセンター10年在籍の外科手技の経験豊富なドクターがおります。 また、麻酔科専門医との連携により全身管理下における静脈内鎮静法を併用することによりリラックスした状態での治療が行えます。 ご希望の場合は担当医にお申し出ください。
コラム : 「インプラントと歯は何が違うのか?」このような質問をたまに受けます。その最大の違いは歯根膜の有無です。 歯根膜とは歯の周りにある靭帯組織で、歯は顎骨に直接くっついていません。この歯根膜は圧力センサーの役目を果たしており食感に関わっています。 代わってインプラントは直接顎骨に結合するものであって、強い咬合力を得ることはできるものの、長期経過により食感を感じ取れるとの報告はありますが繊細な食感を得ることは難しいです。 歯牙移植は歯根膜の回復により、以前の歯と同じように使えるメリットが極めて大きい方法かと考えます。